「……ウワキしてやるううぅ〜!」
炎の英雄、ヒューゴは、そう叫んで走り去った。
「ちょ……ちょっと待てよ!ヒューゴ!」
その後を、シーザーは追いかけた。
しかし、ひょろい軍師が、本気で走っている一人前の戦士に追いつけるはずもなかった。
「くっそ……」
シーザーは、あきらめて走るのをやめ、立ち止まった。
―数十分前―
シーザーは、部屋で一人で仕事をしている。
ここ最近、ヒューゴと会っていない気がする。
みかけたり、事務的な用で会ったりはしていたが、恋人として、それは何か間違っている気がするのは、シーザーだけだろうか?
これまで、会えないことが続けば、必ずヒューゴから会いにきた。
それをしないということは、シーザーに会いたくないのだろうか?
シーザーは嫌われたということか?
「……ちょっといじめてみるか」
シーザーは、なにやら不吉なことを呟くと、部屋を抜けだし、外に向かった。
ひとまず、ヒューゴを探す。
遠くに、パーシヴァルと話しているのがみえた。
「あんの、前髪野郎……」
腹の底から、怒りがふつふつとわき出てきたが、今はこらえる。
「このへんかな」
シーザーは、そう呟くと、その場に立ち止まった。
これぐらいの距離であれば、いつもなら、ヒューゴは、シーザーに気付いて駆け寄って来る。
「あら、軍師様ではありませんか?今日は、お仕事は?」
一人の女性が近寄ってきた。
パーシヴァルがいれば、女性陣はそちらにたかるが、今はヒューゴといるため、女性陣は近寄れないはずだ。
そのため、こうしてシーザーが立っているだけで、女性陣は、普段部屋に籠っている軍師様と話すチャンスとばかりに、たかってくる。
「あ、ホントにシーザーさんだ。こっちにも来て下さいよ〜」
あっと言う間にシーザーは取り囲まれた。
「あ、シーザーだ」
遠くでヒューゴの声がした。
「軍師様?今夜、お食事でもいかが?」
「軍師様、もちろんわたくしと行ってくださりますわよね?」
「シーザーさん、こっちはどうなんですか?」
夜のお誘いの声が飛び交う中、シーザーの意識は、ヒューゴにだけ向いていた。
ヒューゴは、近付いてきて、シーザーの話が終わるのを待っている。
恋人が、異性に取り囲まれているのだ。ヤキモチでもやいて、割り込んできてもいいのではないだろうか?
シーザーは焦れて、ヒューゴにもう少し意地悪をしてみる。
「そうだな〜、今夜は、なんか用あったかな〜?」
ヒューゴは、それでも反応しない。
シーザーは、それを見て、さらに追い討ちをかけた。
「じゃあ、キミと今夜は食事でもしようかな?」
適当な女性の手をとって、シーザーは言った。
シーザーが手を取った女性は、嬉しさに目をキラキラさせ、シーザーを見つめている。
もちろん、シーザーがそんなことを見ているはずもなく、ヒューゴの様子をうかがう。
……まだ、反応はない。
囲まれているとはいえ、女性よりは背が高いヒューゴに、シーザーが何をしているのか、見えていないはずがないのだが。
シーザーは、最終手段として、女性の手をとって、ヒューゴに向かって歩き出した。
しかし、シーザーは重大な過ちを犯していることに、まだ気付いていなかった。
人間は、限界までは我慢して、表面には感情をださないものだ。だが、我慢の限界を超えた時、最も恐ろしいことが起こるのだ。
……特にヒューゴのような人種は。
「おぉ、ヒューゴ。いたのか」
白々しく言い放つ。
「……シーザー、仕事はもう、終わったんだ?」
「終わったぜ?」
「……で?ナニしてんの?」
そこまできて、ようやく、シーザーはヒューゴの体から溢れ出る怒りのオーラに気がついた。
「あ……や、これは……」
「オレ、待ってたんだけどなあ?仕事あるのに、いっつも邪魔しちゃうから、今回は我慢してたのに……」
「ヒ……ヒューゴ殿?」
シーザーが恐る恐る声をかけると、ヒューゴはギッとシーザーを睨み、言った。
「……ウワキしてやるううぅ〜!」
炎の英雄、ヒューゴは、そう叫んで走り去った。
「ちょ……ちょっと待てよ!ヒューゴ!」
その後を、シーザーは追いかけた。
しかし、ひょろい軍師が、本気で走っている一人前の戦士に追いつけるはずもなかった。
「くっそ……」
シーザーは、あきらめて走るのをやめ、立ち止まった。
どうやら、やり過ぎたらしい。
最初の目的は果たしたが、関係は悪化してしまった。
とりあえず、ヒューゴが行きそうな所を探すしかない。シーザーは、とぼとぼと歩き出した。
まず、フーバーの所。
「いないか……」
「キュィ?」
「フーバー、ヒューゴ見なかったか?」
「キュウウゥ……」
見なかったらしい。
どことなく、申し訳なさそうな声だ。
「……ありがとう」
シーザーは、フーバーに礼を言って立ち去った。
次は、牧場。
「ここにもいない……」
船の甲板に行ってみる。
「やっぱりいない……。アイツ、どこ行ったんだ?」
図書館、酒場、会議室……。城の中と外は、ほとんど見た。城の敷地から出てはいないだろうから、残りはあと2か所。
「……いない」
ヒューゴの部屋に来てみたが、やはり、目的の人物は見つからない。
残りは、あと1か所。
最もいる可能性は低いと思い、後回しにしたのだが。
シーザーは、自分の部屋に向かった。
「……やっと見つけた」
シーザーは、椅子の上で膝を抱えて座っているヒューゴを見つけた。
ヒューゴは、いじけた顔でシーザーを見る。
「……約束してるんだろ?行ってきたら?」
「別に、あんなの口約束だ」
「……サイテー。女の人弄ぶなんて。……オレも遊ばれた一人だけどさ」
「……俺は、お前で遊んでなんかいない。お前以外の人間なんか、いくら遊んでもどうだっていいけど」
少しだけ、ヒューゴの表情に変化があった。
「……やっぱり、サイテー。オレ以外はどうでもいいなんて。遊ばれた人がどんな気持ちか、考えないの?」
「俺はお前のことしか考えてないからな」
ヒューゴは、ちょっと顔を赤くして、うつむいた。
「……じゃあ、なんでわざわざオレの目の前であんなことしたんだよ。オレがいること、わかってたんだろ?」
「……それ言ったら、お前、絶対怒るから嫌だ」
「なに?怒らないから教えてよ」
シーザーは、しばし間をおいて、言った。
「お前に、ヤキモチやかせたかった」
シーザーは、ヒューゴが会いに来ないのは、嫌われたからだということも考えたが、それは、そういう考え方もある、というだけだ。
実際には、全くその可能性は考慮していなかった。
どうせ、仕事を邪魔しては悪いと、遠慮しているのだろうと思っていた。
……事実、そうだった。
今回、こんな意地悪をしたのは、本当にシーザーの考えが正しいのか、本当にシーザーは嫌われていないのかを確かめたいという気持ちもあったにはあった。
しかし、最大の理由は,シーザーがヒューゴに会えない間、シーザー以外の人物と一緒にいることを考えた時の気持ちを伝えたかった、ということだ。
「シーザー……」
ヒューゴは、なんとも言えない表情でシーザーを見つめ、立ち上がると、歩み寄った。
そして、シーザーの頬に手を伸ばし……。
「そんな理由であの人を騙したのか?!」
ヒューゴは、シーザーの頬に手を伸ばし、思いっ切りつねりながら言った。
「いひぇいひぇいひぇ……。おほやらいっへいっはやろ?!(いていていて……。怒らないって言っただろ?!)」
「怒ってない。けど、自分がしたことの始末はつけなきゃね?」
ヒューゴは怖い笑顔で言った。
「わはっひゃ!わはっひゃはら、はらひへふへ!(わかった!わかったから、放してくれ!)」
ヒューゴは、手を離した。
「いってぇ……」
シーザーは涙目になりながら、頬をさすった。
ヒューゴが、急にシーザーに抱き付く。
「オレが、他の人といる時、シーザーがどんな気持ちなのか、わかった」
シーザーは、ヒューゴの背中に腕をまわしながら、聞いている。
「誰とも話さないわけにはいかないんだから、仕方無いってわかってても、こういう気持ちになっちゃうんだもんね。
……でも、この気持ちは、オレが、シーザーを好きって証拠でしょ?だから、悪いことじゃないよね?」
ヒューゴは、少しみじろぎして、シーザーの耳に口を近付けた。
「悪いことではないけど、やっぱり我慢しなきゃいけないことなんだから、我慢しなきゃいけない分、一緒にいようよ」
ヒューゴにしては、大胆な発言だ。
意外ではあるが、たまにはこういうことを言って、甘えてもらいたい。
「じゃあ、今日はお互いにヤキモチやいたんだから、ずっとこのまんまか?」
ヒューゴは、シーザーから少し体を離し、上目遣いでちらっと見ると、シーザーの手を引いて椅子に向かった。
そして、シーザーを座らせると、自分はその膝に横向きに座った。
「えへへ……。シーザーの匂いがする〜」
猫の様に擦り付いて、ヒューゴは言った。
「ヒューゴぉ……これ、反則」
「何が?」
「この体勢で、何もするなっていうのは、拷問だろ?」
「ダメ。今日はそういうの無しで一緒にいたいの!」
ヒューゴは、そう言いながら、シーザーの首筋に顔を寄せた。
シーザーの首に、ヒューゴの息がかかる。
シーザーの背筋がゾクゾクと震えた。
「……そうは言っても、ヒューゴ、これは誘ってるとしか思えないぞ?」
「……しょうがないなあ。これだけだよ?」
ヒューゴは、シーザーの唇に、自分の唇を重ねた。
「ん……」
シーザーは、片手でヒューゴの体を支え、もう片方の手で、ヒューゴの頭をむさぼるように、自分に押しつけた。
「ん……ぅ……」
シーザーが舌を差し込んで中を探ると、ヒューゴはシーザーの服をギュッとつかんだ。
「ぁ……う……ん……ふぁ……」
舌を強く吸うと、ヒューゴの体がピクッと震えた。
「ん……は……ぁ……シーザー……」
「ヒューゴ、だめか?」
シーザーが口を離して訊いた。
「ん……ダメ……」
いつもならば、ここまでくればヒューゴもその気になって、シーザーを受け入れるのだが、今日はその気になっても、我慢しているようだ。
「なんでだ?」
「今日は……オレ、やりすぎちゃうだろう、から……」
「やりすぎる?」
「いくらやっても満足できそうもないから……」
「……満足するまでやってやろうか?」
「いい!いらない!明日どうなるか、わかってるもん」
ヒューゴは、慌てて否定した。
「……わかったよ。けど、これ以上俺を誘惑しないでくれよ?俺が歯止めがきかなくなる」
「わかってる」
ヒューゴは、幸せそうな顔でシーザーに擦り寄った。
(それが危ないってのに……)
その後、シーザーは己の欲望を押さえこむのに、全神経を注ぎこまなければならなかった。
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