「ヒューゴ〜?」
シーザーがヒューゴを探して城を歩き回っている。
しかし、どこにも見つからない。
「シーザー、ヒューゴならいないぞ」
「ジョー軍曹か。なんでだ?」
シーザーが訊くと、ジョー軍曹の表情が暗くなった。
訊いてはいけないことなのかと思ったが、シーザーが止める前にジョー軍曹は話し始めた。
「今日は……ルルが死んだ日だ」

* * *

石を積み上げただけの、簡素な墓の前に、ヒューゴはいた。
隣にはフーバーが控えている。
墓の前に、花が供えられていた。
背後からではその表情は窺えないが、明るい表情でないのはわかりきっている。
「……なんでなんだろう」
足音で、シーザーが来たとわかったのだろう。
ヒューゴが突然話し始めた。
「なんで、ルルなんだろう」
シーザーは何も言わずに、ただ立っている。
いや、何も言えなかった。
「オレでも良かったじゃないか」
「お前が死んで……」
「わかってるよ。オレが死んでたとしても、何も変わらない。けど、オレが死んでれば、こんなに悲しい思いはしなくて済んだのに……!」
ヒューゴの拳が震えている。
何か言葉をかけてやりたくても、言葉が見つからなかった。
けれど、ヒューゴは言葉なんて欲しがっていないとわかっていたから、無理に探そうとはしなかった。
「なんで……なんでルルなんだよ!」
「じゃあ、お前はルル以外の誰かなら死んでも良かったと言うのか?」
「違う……誰が死んでもオレは悲しい」
矛盾だ。
ヒューゴにもそれはわかっている。
それでも、なぜルルなのか、なぜ彼でなければならなかったのか。……なぜ自分ではなかったのか。
疑問を抱かずにはいられなかった。
「あれは、ルルの寿命だったんだ。運命だ。それはお前もわかってるんだろ?」
「……うん。でも、あの時こうしていれば……そう思うんだ。していてもあれはルルの運命だったのだから、結果は変わらなかったのかもしれない。
それとも、オレが助けられなかったことがオレの運命だったのか……両方ともなのか……わからない。けど……」
「全て……運命だ。なるようにしかならない。過去のことはもう変えられない。
運命だと思わなければ、逃れられないだろ?考えたって仕方無いんだ。事実は変わらない」
きつい言い方になったな、とシーザーは少し後悔した。
しかし、ヒューゴがそれで傷ついたようにはみえない。
「……それでも、オレはルルを助けられなかったことを後悔してしまう。どうしてだろうね?」
ヒューゴは自嘲的に笑った。
「人は……そういう生き物だ」
ヒューゴは、ゆっくりと空を見上げた。
抜ける様な青空とは、これを言うのだろう。青が一面に広がっている。
そこから零れ落ちる太陽の光が大地に降り注ぐ。
そんな当たり前の光景が、ひどく美しく感じられた。
「でも、ルルが死んだおかげでオレはシーザーに逢えた。ルルを守れなかったオレが幸せになるのはおかしいけど……」
「おかしくない!」
シーザーは背後からヒューゴを抱き締めた。
ヒューゴは、無感動な表情で、横にあるシーザーの顔を見る。
「どうしておかしいんだ?誰にだって幸せになる権利はあるはずだ!」
「オレにはそんな権利……」
「ある!俺が幸せにしてやる!」
ヒューゴは曖昧な微笑みを浮かべた。
嬉しい……けれど悲しい。そんな笑みだ。
シーザーには、ヒューゴがどうしてそんな顔をするのかわからなかった。
「今も、十分幸せだよ。けど、シーザーもいつかは死ぬんだ。オレを置いて。そうやってオレは独りになってくんだ……」
シーザーはヒューゴの肩をつかむと、自分に体を向けさせた。
ヒューゴはなぜか無表情だ。
感情を押し殺しているのだろうか。
「死なないとは約束できない。けど、独りにはさせない」
「そんなこと無理だ。でもありがとう。シーザーの気持ちは嬉しいよ」
「無理じゃない!無理じゃ……っ」
なぜか、涙が溢れ出した。
なんで泣いているのかよくわからなかった。ただ急に溢れてきて、止めることもできず流れ落ちた。
「どうしたの?泣かないでよ」
「お前は……なんで泣かないんだ……」
ヒューゴはきょとん、とした顔でシーザーを見た。
「泣く……?」
「ずっと……我慢してたんだろ?胸ぐらい貸すよ」
シーザーが抱き締めながら言うと、ヒューゴは戸惑いながらシーザーの背中に腕を回した。
「オレは、泣きたい……のかな」
「とりあえず泣いとけよ」
ヒューゴの目に涙が滲んだと思ったら、次の瞬間には溢れ出した。
「あはっ……やっぱりオレ、泣きたかったんだ……」
「それぐらい、自分でわかれよ……」
「うん……ごめん……」
そうしてしばらく、ヒューゴは声もあげずに肩だけを震わせて泣いていたが、その震えがだいぶ治まると、シーザーは静かに言った。
「俺は……俺だけは、お前を独りになんてしないから……」
ヒューゴはこくっと頷いた。
青い空で輝く太陽がほんの少し傾いて、二人をやわらかい光で照らしだした。

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