炎の運び手一行は、シンダルの遺跡の一つ、破壊者が儀式の地として使っている場所に来ていた。
彼らの指導者、炎の英雄ヒューゴを助けだすため、そして破壊者を倒すために。
「ついに…来た…」
シーザーが呟いた。
もう指示は全て終わらせて、後は乗り込んで、ヒューゴを助けるだけだ。
その時、遺跡の中から、二つの人影が現れた。
「ア、アルベルト?!」
伴っているのはセラのみ。
無防備としか言い様がない。
そんなにこちらを見くびっているのか。
「…シーザー」
アルベルトは、つかつかとシーザーに歩み寄った。
「愛しい弟よ!元気にしていたか?」
突然、シーザーに抱き付き、唇をタコのように突き出した。
「うわあ!やめろ!」
シーザーは、自分の唇に触れる直前に手で制止した。
それでも、アルベルトはシーザーの唇を奪おうとする。
「お、おい!誰かこいつをなんとかしろよ!」
シーザーが叫んで、はっと我にかえった兵士達は、わらわらとアルベルトにたかった。
「汚い手で私に触るな!」
兵士達が引きはがすまでもなく、アルベルトは自分から離れた。
「ア、アルベルト!お前、ヒューゴをどうした?!」
「あー…あれね。邪魔だから、どっか捨てて来た」
「何?!」
「ここにあります」
シーザーがアルベルトの胸倉を掴むと、セラが至極めんどくさそうに言って、杖を振った。
すると、空中に、横になって目を閉じているヒューゴが現れた。
「ヒューゴ!」
シーザーは駆け寄ってヒューゴに触ろうとしたが、何かに阻まれて触れなかった。
「セ、セラ!なんてことをするんだ!」
「アルベルト、私は彼を連れ去れと言われただけです」
「く…!」
「おい!ヒューゴを返せよ!」
シーザーが叫ぶと、アルベルトはシーザーに接近した。
「そうはいかないな、弟よ。これは私とお前の仲を引き裂くモノだ。早急に始末しなければ」
「なんだよ、それ!つーか、いちいちこんなに急接近しなくていいだろ!」
「他人が見ているからって、照れてはいけないよ」
「照れてねぇ!」
アルベルトとシーザーが攻防を繰り返すなか、セラはふっ…と溜め息をついた。
「さっさとしてください」
そこら辺一帯に、猛吹雪が吹いた。
「ス、スンマセン…。ってなんで俺が謝らなきゃいけないんだ!お前のせいだろ!」
「弟よ、カルシウム不足じゃないか?」
「余計なお世話だ!おい!お前!」
「セラです」
「セラ!ヒューゴを返してくれ!」
「弟よ、お前はいつもそうだ。人の話を聞いていない。返さないと言って…ってセラぁ!」
セラが杖を振ると、ヒューゴがすとんっとシーザーの腕の中に落ちた。
「…はっ…どうやら、俺の勝ちのようですねぇ、兄上?」
ヒューゴを、近付いてきたフーバーに預けると、シーザーはアルベルトに慇懃無礼に言い放った。
「セラ!どういうことだ!」
「ですから、私が言われたのは、彼をさらうこと。何も間違ったことはしていません。それよりアルベルト、あなたが情報を流すのが遅かったから、私が恥をかいたではないですか」
「…我々の本拠地の情報のことか?」
「そうです。私、もう伝わっているものだと思って話していたせいで、化けているのがばれてしまったのですよ?」
「…何故、化けていたのだ?」
「趣味です」
「………」
「本物で襲わせて、私が助けて、うまく彼らに紛れ込めそうだったのに。本物は、本物だとわからないように、体中のアザを消したのですよ?それだけ手をかけたのに…」
なんとなく、真相が見えてきた。
つまり、アルベルトがヒューゴがシーザーとくっついているのでヤキモチをやき、セラに頼んで連れ去ったと…。
そして、セラがわざわざヒューゴに化けていたのは、彼女の趣味だった。
さらに、一人目の、シーザーを襲ったヒューゴは、実は操られた本物で、シーザーがつけた痕が消えていたのは、セラの手の込んだ偽装工作だったと…。
そういうことか。
一体、彼らの本来の目的はどうなったのか…。
「アルベルト、私はちゃんと働いたのですから、約束のものを」
「…仕方ない」
アルベルトは、何か、チケットの様なものをセラに渡した。
「これで…これでついに…!ルック様ぁ!セラと豪華客船で行く世界一周の旅にレッツゴーですわぁ〜!」
なんだかよくわからないことを叫んで、セラは遺跡の中に駆け込んで行った。
「…帰ろうか」
シーザーは、後ろに控えている兵達に声をかけて、アルベルトに背を向けた。
「おぉっと、弟よ。久しぶりの再会だというのに、もうお別れとは寂しすぎるではないか!」
「…またか」
シーザーはいい加減げんなりした。
後ろから、自分に近寄ってくる足音がする。
シーザーは、横に跳んでよけた。
アルベルトはずさぁっ!と前につんのめる。
「くっ…!弟よ、兄の美しい顔に傷が…」
「うるせぇよ」
シーザーは、顔だけこちらに向けたアルベルトの顔面を踏み付けた。
「さ、行こう」
完全にノックダウンされたアルベルトは放っておいて、シーザーは歩き出した。
「のわぁっ!」
突然、押し倒されたかと思うと、アルベルトが上に乗っている。
後ろから押し倒されたのに、どういうわけか、シーザーはあお向けになっている。
「弟よ…照れなくていいと言っているだろう?」
「照れてねぇって言ってんだろ!どけよ!」
「あぁ…そんなに頬を赤くして…兄が我慢出来なくなってしまうだろ?そんなに恥じらわなくていいのだぞ?」
「俺は怒ってるんだ!」
シーザーはじたじたと暴れるが、アルベルトは全く動じない。
「服が乱れるぞ?」
「ならさっさとどけ!」
「ほら、鎖骨が見え…」
「うわぁっ!鼻血垂らすなよ!」
周りの人々は、助けようともしない。
「ん…」
「お、ヒューゴ、目を覚ましたか?」
ジョー軍曹が、ヒューゴに声をかける。
「うん…あれ?ここ、どこ…」
「や、やめろおおぉ!」
シーザーの叫び声が響く。
シーザーは、唇に迫るアルベルトを、渾身の力で止めている。
「はなせえ〜…!」
「そんなに人に見られるのが嫌なら、場所を変えようか?」
「そういう問題じゃねえ…!」
「照れるなと言って…」
「シーザーから離れろ」
アルベルトの首に、剣があてられた。
「ヒューゴ!」
「おや、目を覚ましたのか、逆プリン頭君」
ヒューゴは、ものすごい殺気を放っている。
「離れろと、言っている」
「まあまあ、そう怒るな。それに、君には私を殺せないはずだ。私はたった一人のシーザーの兄なのだからね」
「殺っていいぞ。ヒューゴ」
「…だそうですが?」
「弟よ…まだ照れているのか?」
「照れてねぇっつってんだろぉが…!」
「…シーザーが許しても、簡単に殺しはしないよ。死んで楽になんて…」
「…わかった。仕方ない」
そう言うと、アルベルトはシーザーから離れ、遺跡に戻って行った。
「帰るよ」
「あ、ちょっ…待てよ!ヒューゴ!」
すたすたと歩き出したヒューゴを、シーザーは慌てて追った。
「ヒューゴ?」
「なんだよ」
帰り道、一言も言葉を発しないヒューゴに、シーザーは恐る恐る声をかけた。
「怒ってるか?」
「…怒ってるよ。なんだよ、あいつ。兄弟だからってシーザーにベタベタして…」
「…俺に怒ってるんじゃないのか?」
「シーザーに怒ったってしょうがないだろ?」
「…そうだよな」
また、しばらく沈黙。
「…ヒューゴ、ごめんな。お前を守れなかった」
「…いいよ。それよりシーザー、帰ったらお仕置ね」
「へ?!なんで?怒ってないんじゃなかったのか?!」
「シーザーがあんなことされたことには怒ってないよ。でも、オレ以外がシーザーに触ったことは許せない」
「やっぱり怒ってるんじゃないかあ〜」
ヒューゴは、シーザーに微笑みかけた。
「さ、早く帰ろ」
ヒューゴの無邪気な笑顔に恐怖を覚えながら、シーザーは歩き続けた。

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