赤いモノが欲しかった。
そのためならなんでもした。
プライドなんてかなぐり捨てて、本当になんでもした。
けど、結局は手に入らないモノなんだって、再認識させられただけだった。
オレが近付こうとする度、離れていく赤いモノ。
それなら、忘れてしまえばいい。
憎んでしまえばいい。
あの、常に眠そうで、何を考えているのかわからない、優しい碧の瞳も。
聞こえてくることと言ったら、罵詈雑言だけの、やわらかい声も。
剣なんて握ったことがなくて、不健康に白い、手の温もりも。
寝癖を直そうともしないで、いつもボサボサの、あの、燃える様な夕焼け色の髪も。
手に入らないモノなんて、イラナイ。
傷つくぐらいなら、傷つけた方がいい。
…そういうことだ。
「ヒューゴ」
後ろから、突然呼び止められて、手を掴まれた。
シーザーだ。
ヒューゴは振り向かない。
「お前、最近どうしたんだ?」
何もない。ただ、シーザーが嫌いになっただけ。
「俺、何かしたか?」
沈黙。
「何かしたんなら、教えてくれよ。これじゃあ、謝ろうにも謝れないだろ?」
謝ってほしくなんかない。
ヒューゴがシーザーを嫌いなだけ。
「…言いたくないんなら、それでもいいけどな、俺も、それじゃあ謝れないぞ。いいのか?」
謝って欲しくはない。
…じゃあ、ナニが欲しい?
「…俺のこと。嫌いなのか?」
嫌い。大嫌い。
でも、その質問にうなずけないのは、ナゼ?
「ヒューゴ、どうなんだ?」
キライキライキライキライキライキライキライキライキライダイキライ…。
「ヒューゴ」
「嫌いだよ。大嫌い」
言ってしまった。
いや、いいのだ。手に入らないモノはイラナイ。
近くにあっても、目障りなだけだ。
けれど、目に写るものが、滲むのは、ナゼ?
「…そうか」
シーザーが、ヒューゴの手を離した。
あの、碧の瞳が、涙で潤んでいる気がした。
オレのせい?オレが傷つけた?
でも、いいんだ。オレが嫌いなヤツなんて。
でも、こんなに胸が締め付けられるのは、ナゼ?
この、頬を伝う、熱いモノは、ナニ?
「…呼び止めて、悪かった」
足音が遠ざかっていく。
これでいい。
───本当ニ?───
もう、目障りなモノは、無くなった。
───イラナイ?───
けれど、この足が、去り行く背中に向かって、動きだしたのは、ナゼ?
ナゼ何故なぜ?
何をしたい?何を…。
オレは…。
「ヒューゴ?!」
気が付くと、シーザーに抱き付いていた。
「抱いて…強く、強く、抱き締めて!」
シーザーが、言われた通りに、体を反転させ、ヒューゴを抱き締める。
「…ヒューゴ、どうした?俺が嫌いなんだろ?」
ヒューゴはぶんぶんと首をふる。
「好き!大好き!!…ごめん、ごめん」
ヒューゴは、しゃくりあげながら、謝った。
「シーザーに、こっち向いてもらいたくて、がんばったけど、シーザーどんどん離れてっちゃうから。
それなら、オレがシーザーを嫌いになれば、つらくないっておもって…」
この腕の温もりが欲しかった。
自分だけのものにしたかった。
シーザーは、ヒューゴが落ち着くまで待って、言った。
「…俺も、お前が好きだよ。けど、お前には迷惑だろうと思って。それがお前を傷つけたんだな。ごめん」
「違う…。オレが悪いんだ。シーザーのこと、大嫌いなんて言って…」
シーザーは、ヒューゴの頭をなでた。
「もう、離れたりしないよね?」
「あぁ…」
この腕に包まれているのなら、もう何もいらない。
そう、欲しいのは、赤いモノだけ。

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