「シーザー、何か欲しいもの、ある?」
炎の運び手が解散して、全員がそれぞれの場所へと帰って行った。
その中で、何人かビュッデヒュッケ城に残った者がいたが、シーザーもその一人だった。
ヒューゴは、族長の息子ということもあり、カラヤに戻った。
シーザーも一緒に行こうと誘われたが、村の復興で忙しい時に、部外者がのこのこと入っていくわけにもいかず、断った。
ヒューゴと簡単に会えなくなるのはさみしいが、ビュッデヒュッケ城にいれば、会えないわけではない。
そんな理由で、シーザーはビュッデヒュッケ城に残ったのだ。
そして、居候になってしばらくたって、ヒューゴが突然会いに来たので、どうしたものかと思えば、いきなりあの質問だ。
「へ…?」
思わず、間抜けな返事をしてしまった。
「だから、何か欲しいものないの?」
「そりゃあ、俺が欲しいものっつったら、お前しか…いってええぇ!!」
バシッと音が聞こえるほど、ヒューゴは思いっきりシーザーの頭をはたいた。
ヒューゴは、二人きりの時には、どんなことを言っても、顔を赤くするだけだが、あいにく、ここは屋外だ。人前では話が違う。
「こんの…アホ元軍師!!」
元をしっかりつけるあたりが、なんと言うか…。
「ヒューゴぉ…頭は軍師の命だぞ?」
「あはは、ごめんごめん!やっぱり…」
そう言って、ヒューゴはシーザーに妖艶な表情で、ずいっと迫り、顔を寄せ、肩に手を掛けた。そして、片足を上げると、膝を…。
「ココの方がいいかv」
シーザーの顔から、一気に血の気が失せた。
ヒューゴの膝は、シーザーの下腹部…よりちょっと下。足の付け根のあたり。男の急所にあてられていた。
「で、何が欲しいの?」
ヒューゴは体勢を変えずに、不敵な笑顔を浮かべながら、もう一度訊いた。
「い、いや、特にはないデス…」
「ふ〜ん…じゃあいいや」
あっさりヒューゴはシーザーから離れた。
「なんで急に?」
「なんかあげようと思って」
「なんで?」
「それは…ヒミツ」
何かくれるのはうれしいが、理由がよくわからないのでは納得がいかない。
「なんだよ、気になるだろ」
「あげる時に教えてあげるから!」
シーザーがむっとふくれて言うと、ヒューゴは慌てて付け足した。
こういうシーザーを断固拒否すれば、あとがどうなるか、ちゃんとわかっているのだ。
セクハラ、猥褻行為はあたりまえ。それでもだめならその先へ。
「ふぅ〜ん…。で、いつくれんだ?」
「七日後、また来るから。じゃあね」
そう言って、ヒューゴは帰ろうとしたが、シーザーが肩を掴んで引き止めた。
「ちょっと待て。お前、このまま帰る気か?」
「うん。もう用済んだし」
「あのなぁ、俺たちすっげぇ久しぶりに会ったわけだよ」
「うん、そうだね」
「もうちょっとさぁ…こう、ないのか?」
「何が?」
鈍いのか、とぼけているのか。
「遠距離恋愛の二人が久しぶりに会ったんだよ。そしたら当然、何かあるだろ?」
「だから何が!」
「…わかった。お前、ちょっとこっち来い」
「シーザー?!」
シーザーは、ヒューゴの手を引っ張って、城の中に入って行った。向かうは、以前から使っていたシーザーの部屋。
結局、ヒューゴが慌てて付け足したあの一言は、無駄な努力となったわけだ。
* * *
七日後、ヒューゴはフーバーに乗って、またビュッデヒュッケ城に来た。
「シーザー、行くよ」
ヒューゴはいきなりシーザーの部屋に入ると、まだ寝ているシーザーの布団をはぎとった。
「んん…ヒューゴ?なんだよ、どこに…」
「いいから、起きて!」
ヒューゴは、まだ寝ぼけているシーザーを、ベッドから引きずり下ろし、無理やり外に連れ出した。
「はい、乗って」
ヒューゴは、シーザーをフーバーに乗せ、自分も乗ると、フーバーを飛び立たせた。
「シーザー、寝ててもいいけど、ちゃんと掴まってないと落ちるよ」
「誰が寝るか!」
それはそうだ。シーザーも死にたくはない。
「で、どこ行くんだよ」
「すぐ近くなんだけどさ、…まあ、とりあえず一緒に来てよ」
今日はあの日から七日目。ヒューゴが何かをくれると約束した日だ。
ということは、今から行くところに、それがあるのだろうということは、シーザーにも想像がついていた。
しかし、持ってこられないほどのモノとは、一体なんなのか。
ヒューゴが言った通り、目的地にはすぐに着いた。
そこは、広大な草原…と言うよりは、花畑だった。一面、白い花で埋めつくされ、まるで花の絨毯の様だった。
「すっげぇ…」
シーザーは思わず感嘆の声をあげた。
だが、これがプレゼントというわけではないだろう。確かに美しい光景ではあるが、女の様に感動したりはしない。
それは、ヒューゴもわかっているだろう。
「くれるものって…」
「シーザーの欲しいもの、もうあげただろ?」
シーザーの欲しいものと言えば…。
なるほど、ヒューゴと2人きりの時間をくれたというわけか。
思えば、こうして、時間も人目も気にせず2人きりになれたのは、初めてかもしれない。
「…なに、にやにやしてんだよ」
気付かないうちに口元がゆるんでいたようだ。シーザーは、慌ててゆるんだ顔を引き締めた。
「で、なんで今日くれたんだ?」
「今日、シーザーの誕生日だろ?」
「あ…」
「…忘れてたのか」
自分の誕生日も忘れている元軍師を、ヒューゴは冷たい目で見た。
「ま、いいじゃん。今日は一日付き合ってくれるんだろ?」
「まあね。でも何もすることないけど」
「…なんかしたいのか?」
シーザーが、怪しい笑みをうかべながら訊くと、ヒューゴは身の危険を察知したのか、シーザーから離れた。
「…そんな逃げなくても…。俺はヒューゴがいるだけで十分だよ。お前は暇かもしんないけど、俺にくれたんだもんな?」
「…オレも、シーザーといれば、暇なんかじゃないよ」
ヒューゴは俯き加減に、少し顔を赤くしながら言った。
シーザーは、にっと笑うと、地面に倒れ込んだ。
ヒューゴも隣りに座る。…なぜか女の子座りで。
男には、股関節が固くて無理な体勢のはずなのだが。
さらに、そこら中に生えている花で、花冠を作り始めた。
その姿はまさに少女そのものだ。
本人は自覚しているのかいないのか、シーザーが見ていることにも気付かず、黙々と花冠を作り続けている。
やっと一つ作り終わったようで、満足げに笑った。それは、冠と言うよりは、首飾りに近い大きさだ。
その作品をどうしようかと思案しているようで、顔の前に掲げて、なにやら難しい顔をしている。
そしてやっと答えがでたらしく、ぱっと顔を輝かせたと思うと、くるっとシーザーの方を向いた。
が、シーザーが見ていることは全く予想していなかったらしく、目を見開いて動かなくなってしまった。
「シ、シーザー、見てたの?」
「ああ」
全くの無意識の状態を見られて、恥ずかしかったのだろう。ヒューゴは少し顔を赤くした。
「…はい、あげる」
「どぉも」
シーザーはにやにやしながら、花の首飾りをヒューゴから受け取った。
「俺もなんか、返さなきゃな?」
「え?や、別に」
「俺が返したいの!」
「う、うん…」
ヒューゴは気圧されたようにうなずいた。
シーザーは、少し体をずらして、ヒューゴの膝に頭を乗せた。
そして手近にある花を丁寧に摘み採ると、花束のようにまとめて、ヒューゴに差し出した。
「ありがとう」
シーザーが、この場で何かを作って渡せるほど器用なはずもない。
かといって、渡せるようなものは、何も持っていなかったので、ただの花束しか渡せなかったが、ヒューゴは本当に嬉しそうに微笑んだ。
その顔に、シーザーは満足げに笑うと、目を閉じた。
ヒューゴはしばらくシーザーの顔を見ていたが、背中を丸め、シーザーの顔に自分の顔を近付けた。
そして互いの唇が触れた時、シーザーがヒューゴの頭に腕をまわした。
「んっ…んん…」
ヒューゴが逃れようともがくと、シーザーは腕を解き、起き上がると、ヒューゴにキスをしながら押し倒した。
そして唇を離し、ヒューゴの首筋に顔を埋めて、そっとつぶやいた。
「今までで、最高の誕生日だ。ヒューゴ、ありがとう」
ヒューゴは微笑みながら、シーザーを抱き締めた。
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