影がほとんどできないような真昼。
背後の窓から穏やかな陽射しが入り込み、直接体に当たるので少し暑かった。体を動かすのも億劫で、カーテンを引かずにそのままにしておく。
書き物机を挟んで正面には、頬杖を付いて頭を支えるヒューゴ。
書類にペンを走らせる様子を、小首を傾げているようにも見える姿で眺めている。
表情は太陽と同じく穏やかで、降水確率十パーセント未満。
眺められるシーザーの表情はそれとは少し異なり、不安定な様子だった。ひたすら仕事に集中してヒューゴの存在を無視している。
時折ペンを止めて何やら考え込む。
その度ヒューゴは、ペンの先にあった視線をシーザーの顔面に移す。何を言うでもなく、ただ見る。
「……なぁヒューゴ」
「ん?」
シーザーは手を休めずにぽそりと言った。
ヒューゴはそれに笑顔を添えて応える。しかしシーザーはそれを見ていない。
「何か用でもあるのか?」
「無いよ」
「じゃあ見てて楽しいか?」
「……つまらないね」
そう言ったヒューゴの表情は、言葉の真実味を欠けさせた。
「じゃあ、なんでいるんだ」
「別に邪魔してないだろ?」
「……見られてると集中できない」
「じゃあ見てない」
シーザーは手を止め、視線を書類の上の一点に集中させて何やら考え込んだ。視線は書類の上にあったが、実際見ているものはもっと遠く。
ヒューゴは微かに傾いた頭を更に深く傾げた。
「……さっさと終わらせたいんだよ」
シーザーは初めて顔を上げてヒューゴと視線を絡めた。
ヒューゴも頬杖をはずして彼の瞳を見たが、微かに、本当にほんの少しだけ眉を寄せた。
「だって……シーザー……」
数秒間二人の視線は絡んで、先に断ち切ったのはヒューゴだった。
睫を伏せて、小さな声で呟く。
「……わかった」
椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、出口に向かう。
シーザーはそんなヒューゴを気に留めた様子もなく、また顔を伏せてペンを動かす。
早い調子を緩めずに扉に向かい、ノブに手をかけた時、シーザーが顔を上げないままで口を開いた。
「あぁそうだ。ヒューゴ、誕生日おめでとう」
取って付けたかのような口ぶりだった。
ヒューゴは動きを止め、少し沈黙が流れると、振り向いてシーザーに鋭い視線を投げかけた。
しかしそこに怒りの感情は無かった。
「ばかシーザー!オレの誕生日なんてそんなにどうでもいいことなのかよ!」
「んー、そうだな。さっさと仕事終わらせて、お前と一緒にいられるよりはどうでもいいな」
「……またからかったな」
最初から全てわかった上での行動で、彼はヒューゴの反応を見て楽しんでいたのだ。
シーザーは顔を上げ、ヒューゴを手招いた。シーザーを睨み付けながらも、ヒューゴは歩を進めた。
先程まで座っていた椅子の横まで来ると、シーザーは立ち上がってヒューゴの首に左腕を回した。そのまま強く引き寄せる。
ヒューゴは抵抗できずに上体をシーザーに預け、その胸に手を付いて体を支えた。
すぐさま唇が重なる。
「んっ……」
触れ合う感触を確かめるように、シーザーは何度もヒューゴの唇を啄んだ。シーザーの胸に置いたヒューゴの手はいつしか拳を握り、服に深い皺を作っていた。
シーザーは濡れた音を立てて、唇を解放した。
間近にありながら、二人の視線は交わっていない。シーザーはヒューゴの瞳を見たが、ヒューゴはシーザーの唇を見ていた。
「すぐ終わらせるから、イイコで待ってな」
髪をとかすように頭を撫で、シーザーは囁いた。
唇に息がかかり、ヒューゴは僅かに顎を引く。
シーザーは微笑みの形に唇を歪めて、もう一度、一瞬唇を触れあわせた。軽くヒューゴの頭を叩き、椅子に座る。
そして何事も無かったかのようにペンをまた動かし始める。時折手を休め、何かを考え込む。
ヒューゴも椅子に座り、自分の唇を指でそっとなぞって温い息を吐いた。視線はシーザーがペンを走らせる書類の上。しかし実際見ているのはもっと遠く。
シーザーは、ヒューゴを追い出すこともなく、ただ黙々と仕事を続けた。
シーザーの背後の窓からは、太陽が部屋の中に光を与えていた。

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