しっとりとした闇が世界を支配する時分。まだ灯りが灯る部屋があった。
新炎の運び手正軍師の部屋。
中には、部屋の主であるシーザー、そして彼の主であるヒューゴが居た。
シーザーが面白い本があるからと、ヒューゴを誘った。
シーザーのベッドを借りて、ベッドの脇にあるランプの揺れる灯りで読んでいる。
少年が、さらわれた幼なじみの少女を助けに行く話だ。今、物語は佳境に入っている。
途中仲間になった青年が少年を裏切り、少年に襲いかかったところだ。
先が気になり、字を追うのももどかしい。
「ヒューゴ?」
昼間サボった仕事を片付けていたシーザーが、ヒューゴに声を掛けた。
それを音としては認識したが、自分が呼ばれたとは気付かずに、ヒューゴは返事をしなかった。
「ヒューゴ」
「ん?」
少し強い声を出して、やっと気付いた。
「眠くないのか?」
「うん」
「それ、面白いか?」
「うん」
本に集中していて、あまりシーザーの言うことは聞いていない。質問しているということはわかったので、とりあえず是と答える。
「寒くないか?」
「うん」
「俺のこと好きか?」
「うん」
答えてからシーザーの質問の意味に気が付いた。
気付いて、顔が熱くなる。
何か言わなければと思い、シーザーの座っている執務机を振り返った。
「……うわっ!」
シーザーはいつの間に移動したのか、ベッドの上に移動し、ヒューゴのすぐ隣に居た。
起き上がろうとしていたので、シーザーの顔が間近に迫った。ぶつかる直前で止まり、慌てて離れる。
「急に何だよ!」
「俺のベッドだし」
言い返せなくなり、沈黙してシーザーを見つめる。
薄暗いので、顔が赤いことに気付いてくれてなければいいと思う。
シーザーの手が伸びてきて、頬に添えられた。身を引いて逃れようとしたが、この体勢ではなかなか難しい。
手が、髪に潜り込んで耳を覆った。
ゆっくりと、シーザーの顔が近付いてくる。
全てを見透かすような瞳が怖くて、ぎゅっと目を閉じた。
ふわり、と優しいキスが降ってくる。
ベッドに押し付けられて、中途半端に起き上がっていた身体が沈み込んだ。
背後に開いて置いてあった本は、シーザーがどこかへやってしまったらしい。
何度か唇を食み、ぺろりと最後にヒューゴの唇を舐めてシーザーは離れた。
薄く目を開けると、シーザーもヒューゴを見つめていた。
「俺に、抱かれたい?」
カッと、治まりかけた頬がまた熱を帯びた。
シーザーはヒューゴが返事を言う前に、もう行動を起こしていた。
黒いインナーを捲り上げる。
「ちょ……待って!シーザー!」
「待たない」
ジタジタと暴れるが、うまくシーザーの下から抜け出せない。
その間もシーザーは行為を進める。
ズボンに手を掛けられ、ヒューゴは本格的に焦り始めた。
「……っもう離せよ!!」
叫んで、力一杯シーザーを押し退けた。
急いでベッドから降り、出口に向かう。
扉のノブを捻って押すが、開かない。
「なんで……?!」
いくら押しても開かない。シーザーが鍵を閉めたのかもしれない。
シーザーが近付いてくる気配がした。
後ろから襲われてしまうと思い、扉に背を預けてシーザーに向き直った。
ゆったりと歩いて近付いてくる様は、ヒューゴに更にプレッシャーをかけた。
目の前まで来ると、シーザーは扉に片手をついた。
上から見下ろしてくる余裕綽々な顔に腹が立つ。
「そのドアは、引いて開けるんだ」
そう言いながら、シーザーは背後の扉に鍵をかけた。
耳元に唇が寄せられて、低く囁かれる。
「俺に、抱かれたいんだろ?」
「……本まだ読んでない……」
「後で読める」
すぅ……と唇が耳から首へと滑り落ち、背中がゾクゾク震えた。
もうこのまま、堕ちてしまおうか……。
その方が楽かもしれない。
どんなに抵抗しても、最後にはシーザーの思い通りになってしまうのだから。
「……シーザー」
「ん?」
胸が物凄い勢いで鼓動を繰り返している。
こんなに緊張しているなど知られたくはないが、きっとシーザーはわかっているだろう。
ヒューゴがこれから何を言おうとしているのかも。
シーザーは狡い。
全てわかっていて、ヒューゴを困らせるのだから。

「あっちで……」
立ったままでは嫌だと告げると、シーザーはベッドまで手を引いてくれた。
しっとりと覆い被さってきたシーザーの体の温もりに、ひどく安堵感を覚える。
やっぱり、好きなんだなぁと思い、諦めにも似た感情が湧き上がってきた。

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