軍師、シーザー・シルバーバーグ。彼は全く謎に満ちている。
軍師としての評価は高いが、その他の情報がまるで無い。
私はここに、私ができうる限り調べ上げた、彼に関する全ての情報を記す。

* * *

彼は気まぐれに仕事をする。突然ひょいと現れては、問題を解決してどこかへ行ってしまう。
だが、彼に任せればまず悪いことにはならない。
彼は仕事を選り好みするが、彼にも選ぶ基準というものがあるようだ。
まず、誰かに仕えることはしない。あくまで雇われ軍師だ。
それから、国同士の侵略を目的とした争いにも関わらない。
彼が引き受けるのは、例えば街を盗賊が襲うから良い知恵を授けてくれだの、領主が民を虐げるから何とかしてくれだの、うちの店はどうも人気がでないからどうしたらいいのか教えてくれだの、そんな問題だ。
それも、彼のお気に召さなければ駄目だ。
明確な基準は、文面等に著されたりしてはいないが、少し考えれば彼が何を基準に選んでいるかわかるだろう。

* * *

彼が何処に住んでいるのか、誰も知らない。
彼はいつも奇妙な現れ方をする。それは後述することにするが。
何処から現れるのか、全く誰にもわからないのだ。
居場所が知れれば、彼のもとに人が殺到するだろう。
だとしたら、私の研究が彼にとって迷惑になることもあるかもしれない。
しかし、そんなことの無いように充分配慮している。それに、止めることができないのだ。
彼について知りたい。出来れば話してみたい。
……単なる好奇心だ。

* * *

彼が初めて軍師としてのまともな仕事をしたのは、太陽暦475年頃のことだ。
彼が関わったこの事件について、詳しくはわかっていない。どうやら闇に葬られたようだ。
だが、一つだけわかっていることがある。
彼はこの時、兄と戦った。
兄の名はアルベルト・シルバーバーグ。彼はシーザーの燃える様な赤い髪とは違い、暗い色合いの赤だったという。シーザー曰わく、兄の頭は“さつまいも”だそうだ。
兄はこの事件の後、行方がわからないらしい。自ら姿を消したと言われている。
シーザーは、更に見識を広めるために旅に出た。
その辺りから、彼の足取りが掴めなくなる。
数年間旅を続けたようではあるが、その旅の後が不明だ。
時折仕事で顔を出す以外は、全く表舞台には現れない。
家庭ができたのかと思えば、そんな気配は無い。
全く謎だ。

* * *

シルバーバーグと言えば、有能な軍師を多く輩出することで有名だ。
シーザーも、その一族に名を連ねる者である。
祖父はレオン・シルバーバーグ。父はジョージ・シルバーバーグだ。
彼はシルバーバーグ家の者として、幼い頃から勉学に勤しんでいたようだ。
しかし本人にやる気は無かった。
幼い頃アップルという軍師の女性──彼女はシーザーの家庭教師だが、彼女と出会ってシーザーの思想が確立したと言えるだろう。
この頃から、兄とは意見が対立していたようだ。
クリスタルバレーで学んだ時期もあったようである。
これらの話は彼の家族に聞いたが、現在の居場所については何も知らぬと言う。
シーザーは放蕩息子なのか、あるいは口止めしているのか……。
私が何を言っても、流石は軍師の一族。言葉巧みにかわされてしまった。

* * *

シーザーの外見や内面についてだが、前述した通り、真っ赤な髪をしていたらしい。
瞳は緑。
体格が良いとは言い難く、戦闘は苦手だったようだ。
目は優しげに細められ、口元には常にやわらかな微笑みをたたえていたという。
ではただの物静かな優男だったのかというと、そうでもないらしい。
冗談等もよく言い、気さくな人物だったようだ。

* * *

では、ここでシーザー・シルバーバーグの居場所を匂わせる話を一つ紹介しよう。
彼は、盗賊に困っている村に滞在していた。いつもの気まぐれで立ち寄ったようだ。
彼が村に訪れてから、数ヶ月が経とうとしていた。
一つの大きな問題を解決するには、この程度の時間は当然予想できる。
しかし、何故だか彼はひどく焦っていた。
村人が彼に、何故そんなに焦るのかと問うと、彼はこう答えた。
“怖〜いカミさんが、俺の帰りが遅いと寂しがるんでね”
彼はそう言うが、おそらく彼の予想以上に時間が掛かったために焦っていたのだろう。
それを隠すために、村人を不安な気持ちにさせないためにこのような軽口をたたいたのだ。
そんなある日だ。
彼は、突然空から現れた───本当に空からグリフォンと共に現れた───少年に襲われた。
少年はグラスランドの住人のようだった。健康的な褐色の肌に、特徴的な服装。
襲った……とは言っても、命を狙って、というわけでは無かったらしい。どうやらシーザー・シルバーバーグとは知り合いのようだ。
少年はシー?ザーを押し倒し、一方的にまくし立てた。少年の怒り様はそれは激しく、誰にも止められなかった。
しばらくは黙って聞いていたシーザーだったが、途中で少年の口を閉じさせた。
そして村人に、部屋を借りられないかと訊ねた。
村人が一室提供すると、二人きりで話したいと、人を寄せ付けなかった。
中で何が話されたのか、村人は誰も知らないようだ。
数時間後、二人は話をつけて部屋から出て来た。
二人の表情から察するに、シーザーが少年を説き伏せたようだと村人は語る。
というのも、シーザー・シルバーバーグは、妙にすっきりとした顔をしており、反対に少年は気まずい顔をしていたというのだ。
釈然としない顔、ではなく、気まずい顔をしていたということは、シーザーは少年に何かをしたのだろうが、真相は定かではない。
少年は、そのままグリフォンに乗って去ったという。
シーザーに少年との関係を尋ねると、妻だと答えたそうだ。
彼にはユーモアのセンスがあったらしい。
それから、シーザー・シルバーバーグは無事問題を解決し、そして去った。
この話から、重要な手掛かりを見つけることができる。
彼の情報を集めると、シーザーはいつもグリフォンに乗って現れ、そして去ってゆく。
人を背に乗せるグリフォンなど、この世に二頭といないだろう。
だとしたら、グリフォンに乗って現れたあの少年と、シーザー・シルバーバーグの住んでいる場所とは深い関係があるはずである。
私はそう考え、その少年を捜すことにした。
グラスランドの服は非常に特徴的だ。
目撃者に服の特徴を聞いたところ、その少年はカラヤ族であることがわかった。
私は急いでカラヤに向かった。
ここからは、私の思い出としても残しておきたいので、少し細かく書き記しておくことにする。
以前、ゼクセンの焼き討ちに遭い、壊滅的な状態に陥ったカラヤだったが、私が訪れた時には完璧に復興していた。
草原の民は強い。
まず、入り口で見張りの少女達に矢を向けられたが、目的を告げると武器を持っていないかを厳しく取り調べられ、そしてやっと中に通された。
族長に目通りを願うと、馬で狩りに出掛けているという。
仕方無く、私は村を見学しながら、村の人々に話を聞かせてもらうことにした。
カラヤには美しく、そして珍しいものが沢山あったが、ここでは省略する。
グリフォンに乗った少年とシーザー・シルバーバーグについて訊ねたが、皆口を揃えて知らぬと言う。
一人、カラヤの者とは雰囲気の違う者がいた。
カラヤの人々は皆褐色の肌をしているが、彼は白い肌だった。そして服装も、カラヤ独特のものとは違う。
真っ赤な髪の人物だった。
ただの客人かもしれないが、それにしては随分と慣れている雰囲気がある。おそらく長いことここに居るのだろう。
とにかく、話を聞くことにした。カラヤの村人とはまた違う話が聞けるはずである。
彼の見た目を記しておく。
口元が緩んでいた。しかしだらしない印象は受けない。彼の温かい人柄が滲み出ているような、そんな笑みだ。
目は眠たげに細められているが、奥に宿す光は鋭い。
全体的に緩い雰囲気だが、それが彼の品位を下げることは無い。
私は一目見ただけで彼を気に入った。
聞き込みをするよりも先に、彼と話したかった。
例の少年の話ならば、族長に聞けばいいのだ。族長が知らない、或いは言わないのなら村人が口を開くはずがない。
……そう自分に言い訳して、彼に話し掛けた。
彼は非常に知性溢れる人で、話していてとても楽しかった。
私は村人への聞き込みを止めて彼と話し込んだ。
名前を聞いたのだが、教えてもらえなかった。何か複雑な事情があるのだろう。
夜になると、族長が戻った。
族長は私の予想以上に若かった。
私は、先代の族長ルシアのことは知っていた。その息子が継いだという話は聞いていたが、これほど若いとは思っていなかった。
年の頃は、十代の半ばだろうか。だが、青年にも見え、幾年も年を重ねているようにも見える。不思議な空気を纏っていた。
強い眼差しの少年だ。年は若くとも、侮れない雰囲気がある。
右手に包帯を巻いていた。どうしたのか尋ねると、火傷をしたという。しかしその態度はどこか不自然で、謎めいた少年、という印象をうけた。
名前をヒューゴと言った。
ヒューゴが戻った時、私は赤い髪の人物とまだ話していた。
彼はヒューゴに近寄ると、何かを耳元で囁き、そしてヒューゴもそれに囁き返した。
その態度を見ていると、どうやら彼は族長と親しい間柄のようだ。
族長の家屋に通され、あの赤い髪の人物も同席することに許可を求められた。
彼は宰相の様な役割でも担っているのだろう。どうりで頭の回転が早いはずだ。
私は当然承諾した。
族長は村人から、私が何の目的で訪れたか?、聞いているはずだ。
私は本題から切り出した。
まず、私はシーザーに迷惑が掛かるようなことは決して無いようにすると約束した。
それから、ヒューゴにグリフォンに乗った少年とシーザー・シルバーバーグについて聞かせてもらえるか訊ねた。
私が全てを話し終えると、彼は申し訳なさそうに人好きのする微笑みを浮かべ、私の質問に答えてくれた。
返答は、否。
どうやら彼も知らないようだ。嘘をついているようには見えなかったし、彼を疑いたくなかった。
あの少年は、カラヤ族の少年ではなかったようだ。
だが、あのグリフォンに乗った少年が何かを知っているのは確かなのだ。
彼の在所を突き止めれば……。
私は、その少年が誰なのかを突き止めることに目的を変更し、旅を続けることにした。

* * *

これが、現在までに私が調べ上げたシーザー・シルバーバーグに関する全てだ。
書き著してみると、非常に少ないことがわかった。
しかし、これからも研究を続ければこの本も厚くなっていくことだろう。
                           ─キッドファザー─

* * *

「お役に立てず申し訳無い。また何かあれば、いつでもいらして下さい。あなたに大地の精霊の加護がありますよう」
「ありがとう。では、またいつか」
結局、シーザーについての情報が得られず、男は立ち去るしかなかった。
それでも、この気持ちの良い村に足を踏み入れることができただけでもよしとする。
連絡も無しに突然現れた無作法者を族長自ら見送ってくれるなど……これ程気持ちの良い待遇を受けたのは初めてだ。
村人も皆親切だ。
何より、今も族長の後ろに控えている赤い髪の彼と話したことがとても楽しかった。
一晩泊まっていくように言われたが、これ以上迷惑はかけたくなかった。
闇に向かって歩みを進める。

* * *

「……行っちまったな」
男の背中が見えなくなった頃、族長の背後の人影が呟いた。
燃えるような赤い髪をした男だ。
「嫌な奴ではなかったけどな。ああいう奴を騙す時が一番心が痛む」
「騙してなんかいないよ。話を聞かせてもらえるか、って言われたから首を振っただけだ。二人のことを知らないなんて言ってない。そうだろ?」
ヒューゴが背後の男を見上げて言うと、男は苦笑をこぼした。
「……そうだな」
ヒューゴは少し後ろに退がり、男に寄り添った。
「シーザーが有名すぎるから、こんなに面倒なことしなきゃいけないんだぞ?それに、どこかの国にでも目つけられたらどうするんだよ」
「そん時にはまた考えるさ。お前に迷惑はかけねぇよ」
「……オレだってシーザーを誰かに渡したりしないよ」
風に掻き消されそうな程に小さな声ではあったが、確かにシーザーには伝わった。
後ろから腕を回し、緩く抱き締める。
「……俺は、お前の軍師だ」

-------------

back

index

home

diary

novels
幻想水滸伝3
逆転裁判
その他

link