ジェクトを倒した。
あれ程憎んでいた父だが、それはティーダが子供で、しかもジェクトのことを知らなかったからだ。スピラに来てから、ジェクトのことは彼自身とアーロンが教えてくれた。
それに、憎んでいたのは愛情の裏返しの様なものだった。
倒れる彼を前にして駆け出したのは、やはり父として想っているからなのだろう。
だが感傷に浸る暇も無く、エボン=ジュとの戦いに入った。もう、最後だ。
「エボン=ジュを倒したら、オレ――消えっから!」
全員……アーロン以外は全員、戸惑った表情をしていた。ユウナが何か言いたげにティーダを見たが、ティーダは微笑みを返しただけだった。
「さよならってこと!」
ティーダのその告白があったからと言ってここまで来て仲間達の士気が下がることも無く、敵を倒す決意が揺らぐことも無く、戦いは始まり、そして終わった。
エボン=ジュを倒した。
ユウナがすぐに異界送りを始める。
ティーダは背後のアーロンを感じていた。この異界送りで彼はきっと行ってしまう。彼はこちらに止まろうと思えばまだ居られるだろうに、戦いを終えたら消えると決めていることにティーダはあまり納得していなかった。
というのは、あちらに行ってしまったら全てが終わってしまう気がして、アーロンの物語が終わらないで欲しいという単純な我儘なのだが。
とにかく、その決意の理由を問いたかった。
だがそれをアーロンに伝えたことは無い。自分も同じだから言えなかった。
ユウナが何かに驚愕した様子で動きを止めた。その視線を追ってティーダを含め全員がアーロンを振り返る。
ユウナはアーロンの体から溢れだす幻光虫を見て舞いを一時止めたが、アーロンに促されて続ける。
促すアーロンの言葉を聞いて、彼の意志を改めて実感した。
アーロンは仲間達一人一人と目を合わせて前に進んだ。キマリの時には彼の胸を軽く叩いて挨拶をする。
キマリが瀕死のアーロンの言葉を聞いてユウナをベベルから連れ出したことを思い出す。キマリは無口だから何も言わなかったが、アーロンが現われた時にはさぞ驚いただろう。
そしてティーダの前へ。
「十年、待たせたからな」
遠くを見ながら呟く。ティーダの疑問を見透かしたような言葉だ。
「それに、お前が消えるなら俺がここにいる理由が無くなる」
「……あんた、異界に行くんだよな」
「だろうな」
「俺も行けるかな」
「ジェクトの魂は祈り子になった。お前にも魂があるということだ」
「……そっか」
アーロンは再び歩きだした。また会えることを信じてティーダは見送った。それに、引き止めたとしてもどうしようもない。
そして、彼は後世に時代を託して、消えた。解けるように幻光虫に戻ってしまった。あっさりしすぎた別れも彼らしい。
舞い上がって散り散りになる幻光虫がアーロンだったものだと思うと不思議な感じがした。
それから飛空挺に戻って、尚ユウナは舞いを続ける。
シンも召喚獣達も、次々と幻光虫に戻っていった。
同じ存在であるティーダもまた、きっとすぐに消える。
手を見ると、薄青く透けていた。ついにきたかと絶望する一方で、もし異界に行けたら会えると期待する気持ちもあった。
顔を上げるとユウナと目が合った。
「オレ、帰らなくちゃ」
彼女は駄々をこねるように何度も頭を振る。
周囲の仲間が戸惑うのも気に止めないようにして、泣きそうなのを堪えた顔の彼女の横から擦れ違った。
リュックが後ろで叫ぶが、ティーダには彼女の質問に答えられなかった。会えるはずが無い。元から存在しないのだ。
そのまま飛空挺から飛び降りるつもりだったが、キマリがユウナを呼ぶ声で振り返る。彼女が走ってくる。
ティーダは抱き留めようと手を広げたが、予想した感触は無く、ユウナはティーダの体を通り抜けて転んだ。
もう触ることさえできない切なさに眉をしかめる。体を構成する幻光虫が飛んでいくのが見えた。
覚悟はした。だがそれでもやはり辛い。
「ありがとう」
背後から聞こえた声に振り向く。
ティーダに背を向けたまま、ユウナは真っ直ぐ立っている。
そこで急に気が付いた。今更気付いてしまった。恋と錯覚していたなんて、嘘だ。ユウナは自分を好いてくれていた。
ティーダはやはりアーロンを想っていたが、ユウナのそれだけは間違ってなどいなかった。彼女自身もそれはわかっていたはずだ。
ティーダは背後からユウナを抱き締めた。もう触れはしないが、そうせずにはいられなかった。
この鈍さでどれくらい人を傷つけてきただろう。
しばしそうしていたが、もう時間が無いことを悟って決意を固めた。
ユウナを擦り抜けて、歩きだす。
途中から駆け足で、勢い良く空に飛び出した。
不思議な色の雲の先に異界があるだろうかと期待していると、すぐにブラスカが、次にジェクトが現れた。
ジェクトは明るい笑顔でティーダを迎えた。その笑顔で達成感に似たものを覚える。
更にその先にアーロンが見える。彼に気付いて真っ直ぐそちらに落ちて行った。
手を伸ばして落ちて行くとアーロンも軽く腕を広げて待っていた。確かな感触でその腕に抱き止められて落下は終わった。
夢なのか現実なのか判断がつかなかったが、もうどちらでもいい。夢が夢を見るというのも少し笑えるが、何であろうと会えた。
願わくばこの夢が覚めないことを。それが叶わぬならせめて、この幸せな気持ちのまま気付かぬうちに消えたい。 溢れる想いを噛み締め噛み締め、一人微笑んだ。

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