飛空挺に響く轟音の中を黙々歩いた。
先程バハムートの祈り子に会ってシンを倒す方法を聞いてきたところだ。
やっと全てが終わる。そうしたらティーダも消えるわけだが、あまり戸惑わなかった。
多分、自分が普通の存在ではないと先に知っていたからだろう。咀嚼するだけの時間的余裕が与えられていた。
ただ、そうすると気になることがあった。それを質そうと、それから、いろいろ話そうと思うことがあってアーロンの所に向かっている。
いつもどこかの通路に一人で立っているから、探すのにそれ程苦労はしない。案の定、遠くの方に赤い人影が見えてきた。
近付いても、立ったまま寝てるのではないかと思うほど反応が無い。
「寝てんのか?」
そこでやっと顔を上げてティーダを見た。
不機嫌にも見える態度だがもう慣れたし、怒っているわけではないのは知っている。
「ちょっと話あるんだけど、場所変えていいかな」
「ああ」
アーロンが先に立って歩きだした。ティーダはその後ろ、少し距離をとって歩いた。
アーロンは歩く早さを合わせるということをしないので、早足になる。
すぐに個室に着いた。仮眠室のようなもので、中から鍵もかけられる。
入るとアーロンは椅子に、ティーダは他に腰掛ける所も無いのでベッドに座った。
とりあえず落ち着いたが、ティーダは言葉が出てこない。アーロンは促す様子も無く待っている。
たっぷり時間を置いて、重い口を開いた。
「ユウナと、キス、したんだ」
「……そうか」
アーロンの顔色に変化は無い。声の調子もいつも通りだ。
ティーダは大きく溜め息を吐いた。
「反応無し、か」
アーロンにしっかり聞こえる声で呟く。
「キスしちゃったけどさ、ユウナも俺もお互いをそういう意味で好きだったわけじゃないみたいなんだよな。ユウナは俺には他に好きな人がいるって言ってた。俺も迷ってた。ユウナと……あんたと、本当に好きなのはどっちだろうってさ」
そこで一息ついた。
アーロンの様子をちらりと見た。ティーダの言いたいことは伝わっているはずだが、変わった様子は無い。それを見れば彼がティーダをどう思っているかは言わずもがなだが、寂しくはあっても、悲しくはなかった。
自分の膝に視線を移して話を続けた。
「……はっきりさせたかっただけだから。あんたの中ではとっくに冷めてて、終わったことになってるんならいいや」
言葉にするとやはり少し辛いが、何となく覚悟はしていたので耐えられないことはなかった。
少し間を置いてから話を変える。
「あと、誰にも言わないつもりだったんだけど、あんたが自分のこととか、なんで俺の面倒見てくれたかとか話してくれたからさ、俺も言おうと思ってることがあるんだ」
顔を上げてアーロンを見る。アーロンはティーダから視線を外していた。
「俺さ、あんたと同じなんだ。この戦いが終わったら消えるんだよ」
アーロンがティーダを睨むように見た。あまりの迫力に居心地が悪くなる。
「どういうことだ」
「俺もよくわかんねえんだけど……エボン=ジュが本当のザナルカンドの人達を祈り子にして召喚したのが、俺のいたザナルカンドの街と人だ、とか……」
しばらくアーロンはティーダを見つめ、ゆっくりと頭を抱えた。
彼のそんな様子は初めて見て、驚いた。
「……お前は、ここにいるじゃないか。それなのにそんな話が……」
アーロンがそんなに取り乱すとは思わず、ティーダは益々戸惑った。
心配になって、彼に近付いて顔を覗き込む。目をきつく閉じて眉を寄せたその表情は、苦悶の表情だ。
「あの……アーロン?」
声を掛けると彼の目が開いて、目が合ったと思ったら抱き締められていた。
「お前はここにいるのに……!」
頭が真っ白になるとは、こういうことなのだろう。困るとか、戸惑うとかそんなものはとうに通り越してしまっている。
こんなに感情的になったアーロンは見たことがない。
何もできず、固まっているしか無かった。
「なぜお前はそれを受け入れている!?」
「え……なんでって……シンを倒すにはそれしか無いし……」
「そのためにお前が犠牲になることを何故受け入れるのだと言っているんだ!」
「……だって、方法が無いじゃないか!それしか無いんだ、仕方ないじゃんか!」
アーロンの腕の力が緩んだ。ゆっくりと離れていって、頭に軽い重みが乗った。
手が乗っているのだとすぐにわかる。
怒鳴ったらたがが外れたのか、涙が頬を伝った。だが乱暴に拭って後は堪える。
「……すまない」
しばらく沈黙が続いた。その間ずっとアーロンの手は頭の上にあって、正直少し重い。
でも、退けて欲しくない。
「冷めてなどいない」
唐突に話しだしたアーロンを見る。彼は壁の方に向かって話していた。
「だが俺は死人だ。いずれ消える存在に、お前が近付きすぎてはいけないと思った」
ああだから、とやっと気付いた。
全てわかった。
やっと、今やっとだ。気付けなかった自分を激しく呪う。
様々な激しい感情が渦巻いて苦しい。
唇を強く噛み締めてアーロンを見ていると、彼がティーダと目を合わせた。
「お前を愛している」
「もう、遅いよ……今更気付いても遅いじゃん!畜生っ……なんであんたはそうなんだよ!!いっつも自分一人で勝手に突っ走ってさあ!」
アーロンの胸ぐらを掴んで怒鳴る。
だがすぐに脱力して彼の肩に額を預けた。
「……あんたの努力、何だったんだって感じだよなぁ」
それを思うと胸が締め付けられた。
背中をそっとさすられて余計苦しい。
「昔から思ってたけど不器用だよな、あんた」
「そうか」
「何考えてんのかわかんねえしさ、無愛想だし。そんで意外と口うるせえし。……あー、俺何言ってんだろ」
腕を首に回して抱きつき直した。
「……ありがとう」
「何がだ?」
軽く吹き出す。
「それをきくか?……ったくさあ、あんたが居なくなった後の俺のこと考えて、距離置いたんだろ?そういうの、ありがとうって言ったの!」
「そうか」
あちらで暮らした頃からあんなに淡白だったのは、互いに深入りしすぎないように。こちらに来てから冷たくなったのは、いよいよ別れが近付いているから。
その作戦は成功して、ティーダはアーロンの気持ちは自分に無いと思ってユウナに想いを寄せかけた。恐らく彼の計算外だったのは、ティーダはアーロンを忘れられなかった。
本当は、誰よりも愛されていた。
アーロンの人生……と言っても彼は死んでいるが、死人となってからの彼の時間は一体何だったろう。
そう考えると切ない。
それから一晩、二人は共に過ごした。
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本編準拠するなら多分アーロンはティーダ達がどんな存在かわかってるな、と思ったんですが。
でも感情の理屈を考えると、こういうパターンが一番納得できた。
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