とりあえず上を目指して歩き続けた。
モンスターにはそれ程てこずらない。白魔法が使えて召喚もできるユウナと一緒なのは心強い。
それでも、吹雪には勝てない。
強い風が吹き荒れて、雪が叩きつける。これ以上進むのは困難と考えて洞窟で待避することにした。
二人で壁にもたれかかって洞窟の入り口から見える荒れた山を眺める。
火を起こす支度が無いので寒さも厳しい。
「寒くない?」
「うん、大丈夫」
ユウナは笑顔を添えて答えるが、震えで歯が鳴っているのがわかる。尋ねた方が愚かだった。
かと言ってティーダにはどうしてやることもできない。
「……ごめん、ルールーなら火も用意できるんだけどな」
他の誰だって、何かしらの対策ができたに違いない。自分の体温で温めてやる勇気も無くて、ティーダは何もできない。
「ううん、キミがいてくれてよかったよ」
ティーダは苦笑を浮かべてユウナを見る。
「ありがと」
ユウナは何かを言いたげにしばらくティーダを見つめていたが、やがて視線を外した。
膝を抱えて押し黙る時間がしばらく続いた。
先に沈黙を破ったのはユウナだ。
「あのね」
「ん?」
ティーダはユウナを振り返ったが、ユウナは自分の膝を見つめたままだ。
言いにくそうにして先の言葉が出てこないが、促すまでもなく次を紡ぎだした。
「キス、したよね。私たち」
「あ、ああ……」
ユウナを見ていられなくなってティーダも自分の膝に視線を移す。
体を余計に縮こまらせる。極度の緊張で寒さも感じられなくなっていた。
何をそんなに緊張しているのかと言えばよくわからないが、とにかくこの状況から逃げ出したいと思った。
「……私のこと、どう思ってる?」
質問されてユウナに顔を向けるが、答えあぐねて窮した。
ユウナは真面目な顔でティーダを見ていたがすぐに自嘲的に苦笑した。
「ごめん、私ずるいね」
「え?」
「あのね、嬉しかった。キミのキス。だからキミのこと、好きなんだなって思ったんだ」
ティーダは何とも返せずにユウナの話を聞くしかなかった。
「でもね、ちょっと違うかなって」
「何が?」
「好きって意味がちょっと違うと思うの。何て言うのかな。兄弟、みたいな。……うん、やっぱり仲間なんだよね」
「仲間?」
「うん。励まそうとしてくれたんだよね?でも私達、お互いに恋してるって思ってた」
「……つまり、間違えた?」
「そうかなって。……君も、同じなんじゃないかなって」
ティーダは考え込む。
ユウナの意見に明確に確信を得て納得したわけではなかったが、違和感は感じなかった。
「なんでそう思ったんだ?」
「さっきね、必死だったから」
「え?いつ?」
「上から雪が落ちてきて、キミ必死で走って行ったでしょ?私は無理だなって思ったの」
「なんで?」
「だって、たった今落ちて来たんだよ?次がまたあるかも、とか思うよ。そう思ったら私は動けなかった。旅に出る時に覚悟は決めたよ。旅の途中で命を落とす召喚士も多いから。けど咄嗟だもん」
「いや、それは俺が考え無しだったわけで……」
「違う。と思うな」
曖昧な言葉を使ってはいるがユウナには確信があるようだ。そういう強い語調だ。
「だから、あの雪の向こうに好きな人がいるんだろうなって思った」
「は!?」
「誰かなんてわかんないけどね」
「いや、違うって……俺は……」
妙に焦っていた。
誰だかはわからないとは言っていても、いずれわかってしまう気がする。
かと言って何か言えることがあるわけでもなく、ただ気ばかり急く。
「……間違えた、って……」
「きっとね、私はジェクトさんの息子っていうキミをもっと知りたかった。キミは召喚士のことを知って、同情してくれた。それだけなんだよ」
思い当たる節があった。
「……なんか、ごめん」
彼女の言葉を否定できず、そこで漸くティーダは自分を理解したのだ。
彼女への親愛や同情の念を恋だと思おうと、確かにしていた。アーロンから逃げるためだ。
アーロンがティーダに無関心な態度をとるのが彼には辛かった。そこから目を逸らすのに都合のいい代替として彼女を選んだのだ。
それと同時にアーロンへの気持ちを自分が受け入れ切れていないというのもあったろう。女の子を好きになりたいと、きっとどこかで思っていた。
だから余計自分が情けないしユウナに申し訳ない。
「私も、ごめん」
「なんでだよ!ユウナが謝ることなんて全然無いだろ!」
つい声が高くなる。
ユウナの少し驚いた顔を見て、もう一度小さく謝った。
彼女は首を左右に振ってから微笑む。
「君が謝るなら、私も謝らなきゃ」
ユウナとティーダでは全然立場や事情が違うのだが、ティーダにそれを説明することはできなかった。
ユウナが静かに立ち上がった。そのまま入り口付近に歩いて行く。
「吹雪、治まらないね」
「ああ……」
気まずい空気を払えないまま、吹雪が止むのを待つ。
横殴りに降る雪を眺めながら考える。これから先ずっと彼女とまともに話せないのではないか。
それは避けたい。恋とは違ったがユウナのことは好きだ。なんとか会話を続けようと考え、口を開いた。
「あのさ」
「ん?」
くるりと軽やかに向きを変えてティーダに向き直る。
「あのキスは、間違いだと思う?」
ユウナは少しの間首を傾げて考えていたが、それほど間を置かずに口を開く。
「君はどうなの?」
逆に問われてティーダは一瞬面食らう。
考えてみればユウナに全ての答えを求めるのもおかしかった。
怯みはしたが答えには困らずにすぐに述べる。
「間違いじゃない。ボロボロになって泣いてるユウナに何かしてあげたいって思ったんだ。形は間違ったかもしれないけど……それだけで無かったことにしたくないんだ」
「私も無かったことになんてしようと思わない。だって……嬉しかったから」
「……俺、ユウナの支えになれてるのかな」
「君は私のガードだよ」
ユウナの笑顔は眩しかった。
「これからもよろしく、ティーダ」
笑顔に苦笑で答えた。
微妙な雰囲気を何とかしようと始めた会話だったが、結局ユウナに励まされて終わってしまった。
気まずさは消えたから結果は良いとして、やはり彼女の優しさに甘えてばかりだと軽い自己嫌悪に陥る。
それ故に彼女が助かる手段を必ず見つけようと、改めて誓うのだった。
* * *
吹雪が治まるのを待って、洞窟を出た。
吹雪を恐れて隠れたのか、モンスターにはあまり遭遇しなかった。
山頂を目指していると、はぐれた仲間にも途中で会えた。
リュックがユウナに飛び付いて再会を喜び、ワッカがティーダの肩を強く叩く。大袈裟な二人と対照的に、キマリとルールーはいつもとあまり変わらない様子だ。
もちろんアーロンもいて、ティーダが何となく気になって見ていると目が合った。その時には一同は歩きだしていて、二人の様子を気に留めることも無かった。アーロンが歩み寄ってきてティーダの目の前に立つ。
「なんスか?」
「何も無かったか?」
「何もって?」
「それならいい」
そのまま歩きだそうとするアーロンの腕を掴んだ。
「何なんだよ?」
言葉少なな態度に苛つく。
言葉にしなければ、勘の鋭くないティーダにはわからない。いつもアーロンの中で勝手に解決してティーダにはわからないことが悔しかった。
「『何か』が何なのかを聞き返すということは、言うべきことは無いということだろう。ユウナに何も無ければそれでいい」
「じゃあ、そう言えばいいだろ」
「そうだな。……もう行くぞ」
そう言った素っ気ない彼の態度に余計苛立ちが募る。
だがここで彼に何か意見したところで馬耳東風というか、上手く躱されてしまうのはわかっていてティーダは何もできなかった。
ティーダは歩みを進めた。少しの間殿を歩いたが、やがて歩調を早めてワッカに並ぶ。
気を紛らわしたかった。
「なあ、ユウナって今まで恋人とかいたんスか?」
「なんだぁ?ユウナのこと好きにでもなったか?」
「そんなんじゃなくて!」
「んー、いねえんでないかぁ?」
「曖昧だなあ」
「俺もユウナのこと全部知ってるわけじゃないんよ」
「……やっぱルールーにきけばよかったかな」
「こんにゃろっ」
頭をこねくり回されて慌てて振り払う。
その間も後ろのアーロンの様子が気になっていて、気を紛らわすのには上手くいかなかったのだった。
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