それはそれは綺麗な白い馬だ。
人の言葉を解しているような節まであって。
鳶色の鬣が印象的だ。
エイトはその世話を朝晩毎日する。大抵は食事の後、みんなが休憩している間に。
鞍を外し、体を拭き、丁寧にブラッシングをする。その手付きは姫に対する従者のものと同じだ。
実際この馬は姫らしいのだが。
だから姫に仕えるエイトが彼女を大切に扱い敬うのはよくわかる。
しかしそれに妬いてしまう自分がいる。
夕方、今日は早めに野宿を決めて食事の支度の間にエイトは彼女の世話をしていた。
今日の食事当番はゼシカだ。
「……なあ、エイト、手伝おうか」
切り株に座ったまま、頬杖をついて言ってみる。
明らかにその気が無いのはよくわかるだろう。
「いいよ。これは僕の仕事だし、僕が姫様にして差し上げたいんだから。ありがとうククール」
こちらを振り向いて微笑み、そう言うエイトの斜め後ろから紅い日が射し込んで濃い影が顔に差した。そのコントラストが美しい。
一瞬見とれて、しかしエイトはすぐに自分の作業に戻ってしまった。もう後ろ姿しか見えない。
(あ〜あ……もったいね……)
しばらくはエイトの背中を見ていた。
しかしそれにも飽きて、立ち上がる。
姫の前に回り、頭の鬣を手で梳いた。エイトが整えた後なので、指通りがいい。
姫はククールの顔を見ていた。
頬を掌で撫でる。姫は少し嫌がって首を振った。
男に頬を撫でられるなど、はしたないことなのだろう。
その反応が面白い。
ククールが今まで遊んできた女にも初な女はいたが、エイトが大切にする姫様だということが何より楽しい。
薄く笑って、姫の目を見た。姫も真っ直ぐ見返す。
目を閉じて額に口付けた。
彼女は大きく嘶いて、頭を振る。
「姫様!?」
エイトが慌てて姫の顔の所に来た。
姫はエイトに自分の額を擦り付けた。
「姫様、大丈夫ですか?」
彼女が擦り付けるそこを、エイトは布で拭く。
(オレって汚いのかよ)
「ククール!」
「あ?」
「姫様になんてことするんだ!貴いお体なんだぞ!」
怒っている。
珍しいこともあるものだと、不謹慎だが感心した。
温厚さをそのまま表した声と顔では、怒ってもあまり怖くないのが現状だ。
「あー悪い。あんまり綺麗なもんで、つい」
「僕じゃなくて姫様に謝ってくれよ」
エイトが言うので、姫に真正面から向かう。
「もーしわけありませんデシタ」
ククールは精一杯丁寧にお辞儀して奏す。
姫はそっぽを向いた。
(かわいくねー)
心の中で呟く。
エイトは少し彼女のご機嫌をとってから、また作業に戻って行った。
ククールも、そこにいても姫に睨まれるだけなので、元いた切り株に戻る。
やはりエイトにとっては姫様が一番。
(……あれ、でも……)
ククールが姫に悪戯を仕掛けた時、エイトは彼女の体を拭いていた。
(……なんでこっち見てたんだ?)
見ていなければククールが姫に何をしたかは知らないはず。
知らなければ何をしたのか尋ねるはず。
(……偶然か)
小さく溜め息をついてエイトの背中観察を始めた。
エイトが拭く度姫の白さが磨かれていく。混じり気のない白だ。
エイトは知らないだろう。ククールの悪戯の真意を。
姫にキスをして、エイトが焼き餅を妬くような素振りを見せないか、試してみたのだ。
(ずっと、マトモじゃないってわかってるよ)
焼き餅を妬き、焼き餅を妬かせたがって。
男だとわかっていながら止まらない。
良い女が側にいながら、こっちに惹かれる。
しかし始まってしまえばどうにもしようがないことをククールはよくわかっていた。
そして、今まで目を付けた相手を逃したことは無い。今回も逃さず捕らえるつもりだが、些か塀は高い。
今回ばかりは難しいかもしれないと、ぼんやり頭の隅の方で考えるのだった。

-------------

back

index

home

diary

novels
幻想水滸伝3
逆転裁判
その他

link