「決闘よ!!」
ゼシカは鋭い眼光でククールを睨み付けた。
彼女の得意とする、炎の魔法のように熱い目だ。
対するククールは余裕がある。
「おいおい、レディがそんなことを言うもんじゃないぜ」
そんな言葉で宥められるはずもなく、ゼシカの怒気は治まらない。
ゼシカがこうも熱くなっているのは、至極単純なことだった。
彼女は負けず嫌いだ。そして必要以上に女扱いされるのを嫌う。
ククールがその二つを一度に刺激したのだ。
ククールとしては、レディを敬う当然の態度だった。
モンスターといつものように戦った。ゼシカも武器を使って戦うのだが、ククールはいつもそれが気になっていた。
この世に勇ましい女はいるが、ゼシカはその部類ではない。男が守ってしかるべきだと。
ゼシカが怪我を負ったことをきっかけにして、ククールはそれを言った。
女の細腕でナイフやら鞭やらを振り回す必要は無い。オレが守ってやる。ゼシカは得意の魔法で戦い、補助してくれればいい。
そんなことを言った。まあ当然怒るだろうと思いながら。
しかしそれはよくあることで、ゼシカはいつも少し機嫌を悪くしてそれで終わりだ。
それが今日は虫の居所でも悪かったのか、治まらないのだ。
「私が戦えることを証明してあげるわ!さあ、かかってきなさい!準備はいいわ」
エイトがゼシカの腕の怪我にホイミをかけながら彼女を宥めている。
エイトの言うことならこの勝ち気なお嬢様もおとなしく聞くことが多いし、エイトのあの声と微笑みは周りを和やかにする不思議な力がある。
しかしそのエイトを以てしてもゼシカは止まらない。
「姉ちゃん、やめておいた方がよくないでげすか?傷がひどくなったり……」
「うるさいわね!やるったらやるのよ!」
言い出したら聞かないのは本人がいつも言う通りで、ヤンガスはそれ以上口出ししなかった。
ゼシカは短剣を構えている。
ククールは愛用の剣を。
エイトがゼシカの裾を引く。
「ゼシカ……」
「何を言っても無駄よ!」
「ククール」
「やらなきゃ俺がやられる」
「……」
エイトも、黙るしかなかった。
二人とも加減は知っているはずだから、心配も無いはずだ。
……と思った次の瞬間、二人の剣がぶつかる。
それはどう見ても本気のぶつかりあいだ。
相手の剣を受け止めたまま、ゼシカは呪文を唱える。右手に光球が生まれる。
ククールが後ろに跳んで屈む。
その頭上を掠めて光球が飛んでいった。
ククールは立ち上がる流れとともに前に飛び出し、ゼシカに飛び掛かる。ゼシカはそれをかわし、ククールの背に剣を振り下ろす。
しかしククールはその動きを予想していたらしく、難なく躱した。身軽なククールだからできる動きだ。
ゼシカは舌打ちをして、用意してあったらしい魔法を発動する。光が生じ、しかしククールも準備していた魔法でそれを相殺した。
距離を置いて、二人とも呪文を唱える。
周囲に漂う緊張感から、その魔法が相当高度なものだと予想できた。
「……終わりよ!」
「負けられないね」
二人同時に呪文が完成して発動の準備にかかる。
そして
「いいかげんにしろー!!」
エイトが一番初めに発動させた。
ギガデインが二人を襲う。
激しい落雷が呼び寄せられ、轟音と共に降ってきた。
好き勝手にそこら中暴れ回り、過ぎ去った後には、地面に伏した二人。
(あ、兄貴が一番怖いでがす……!)
「二人とも、ただ力を試すだけならそんなに真剣になることはないじゃないか!」
もぞり、と起き上がり、双方エイトを見た。
「……そうね。私も熱くなりすぎたわ」
「じゃあもうやめ……」
「わかった。方法を変えましょう」
「えーー!?」
ゼシカは立ち上がってスカートを軽く払った。
ククールも同じように自分の服を整える。
「で、それっていうのは?」
「ククール!?」
「そうね……抱っこ対決はどう?ヤンガスかエイト、どっちかを抱いて長く耐えられた方の勝ち」
「ゼシカ!」
「いいぜ。じゃあどっちがいい?」
「……ヤンガスがいいわ。重そうだから。私の力、見せてあげる」
二人ともエイトの話など全く聞いていない。
「見栄張って……けどオレはヤンガスを抱っこなんてごめんだな」
「決まりね」
「じゃあ休憩挟んで、始めようぜ」
「いいわ」
そして、第二の対決が決まったのだった。
なぜだか巻き込まれることになった二人からすれば、迷惑な話だ。
「なんであっしや兄貴まで……ククールに抱っこされるよりゼシカ姉ちゃんの方がそりゃいいでげすが、兄貴はいいんでがすか?」
「まあ、仕方ないよね」
もうエイトは達観していた。
「僕たちは抱かれてるだけでいいんだしね」
「そうでげすね」
この楽観は後に覆されることになる。
第二の決闘の時間が迫り、両ペアは準備にとりかかった。
「ヤンガス、最初はおんぶの方がいいと思うの」
「そうでがすか?じゃあ姉ちゃんしっかり支えるでがすよ」
「エイト、最初はオレが抱き上げるから心配しなくていいからな」
「うん」
それぞれ打ち合わせをする。
開始の合図はトロデ王に任せられていて、笛を持ち時を待っていた。
「……よし、勝負始め!」
鋭い笛の音が響く。
抱っこ対決の開始だ。
「ちょ……ククール、なんだよこの抱き方!」
「抱っこ」
「おかしいよ!ククール辛そうだし、僕、背中いく!」
ククールはエイトを横抱きにしていた。
エイトはそれをあからさまに嫌がって、ククールの背に、地面に体が触れないように移動した。
それでしばらく落ち着く。
「ヤ、ヤンガス……私腰が痛くなってきたわ……」
「じゃあ前がいいでげすか?」
「そうして」
おんぶのまま膠着していたが、キツくなってきた。
「ククールは?」
肩から覗き込みながらエイトは問う。
後ろからでは表情が見えないので、ククールの状態が把握できていなかった。きいてみるしかないのだ。
「へ、平気だ……!」
「無理するなよ」
声の様子から辛いことは明らかだ。
先ほどの動きの逆を動いて、エイトはククールの前に来た。首に腕を回してしっかりしがみつく。
「エイトから抱き付いてくれるんだ?」
「だ、だって、なるべく負担かけないようにと思って!」
自分の行動が些か大胆だとはわかっていた。
それを指摘されてエイトは赤面する。
「かわいーキスしていい?」
「ダメに決まってるだろ!なに考えてるんだ!」
「でもこの体勢じゃ逃げられないぜ」
ククールはエイトの抵抗も構わず顔を近付けていく。
ゼシカが大袈裟な咳払いをした。
「決闘の最中ということをお忘れではなくて?」
「あ……わ、悪かった」
ゼシカはその笑顔だけでククールを射竦めた。
それから、勝負が始まって四時間。
「も、もう、ダメでがす……!」
「ちょっと!しっかりしなさいよ!ちゃんと掴まって!私だって支えてるのがやっとなんだから……!」
「痛い、全身痛いでがすよ!」
「……おい、エイト大丈夫か?」
「……っ……大丈夫」
「悪い……オレも、この体勢維持が限界……!」
四人共、勝負が長時間に及び、肉体が限界を訴えていた。
抱かれてる方は、ペアの服に手をかけて、なんとかぶら下がっているような体だ。
抱く方は、ペアを持ち上げることはもちろんできず、なんとか支えている。
「エイト、辛いよな……」
「……ククール……!」
気遣うククールを見上げて、エイトは顔をあげた。
「エイト、やばい!その顔やばい!」
「え……?」
苦痛で目が潤み、力を必死で込めて顔は紅潮する。
そんな顔で見上げられて、ククールはまともでいられそうもない。
エイトはその意味を察することができずにククールを見続けた。
こちらのペアがそうしている間、ゼシカヤンガスペアは
「ヤンガス!どんどん落ちてるわよ、頑張って!」
「もう無理でげすよ〜……!」
ゼシカの足になんとかしがみついている。
目に見えてずり落ちていた。
「ヤンガス、頑張ってよ!」
「もうダメでがす……」
ヤンガスが脱力して、ゼシカがそれを支え切れずに地面に着いた。
トロデ王が笛を鳴らす。
「ゼシカ、ヤンガスペア失格!ククール、エイトペアの勝ち!」
「やった!エイトやったぞ!」
地面に下ろされて、エイトは弱々しく微笑んだ。
口は元気なククールも、腕が動かない。
四人地面に座り込み、沈黙がしばし。それから弾けたように笑い始めた。
「アホらしいな」
「そうね」
「けど、オレの勝ち。ゼシカはかわいい女の子のままでいいってこった」
「……仕方ないわ。実際、私は武器を使った攻撃はみんなみたいにうまくできないもの。魔法の方が合ってるんだわ」
「そ。女の子はそれでいいんだよ」
皆朗らかに笑う。
日が傾き始めた頃だ。彼らの周りに流れるのは、平和な時間だった。

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